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税務レポート「節税策のつもりで海外中古不動産に投資していた場合、税制改正を受けてどう対応するか」

海外不動産に投資し、多額の損失を計上して税負担の軽減を図るというプラン。富裕層の間で注目を集めていた節税策が、封じられることになりました。

解説:日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男


海外不動産に投資し、耐用年数の短さを利用して多額の損失を計上し、給与所得や事業所得と損益通算して税負担の軽減を図るというプランが富裕層の間で注目を集めていました。

しかし、会計検査院の平成27年度検査報告で「中古海外不動産に対し、日本の減価償却の簡便法を適用するのは合理的でない」と指摘され、令和2年度の税制改正で海外の不動産を使った節税策が封じられることになりました。

国外中古不動産投資を利用した 節税策

国外中古不動産投資を利用した 節税策には、ポイントが2つありました。

建物の比重が大きく、短い耐用年数で減価償却できる

1つめのポイントは、中古建物の耐用年数を「簡便法」で計算する点にあります。日本に比べ海外では土地より建物の比重が大きいうえに中古建物の簡便法による短い耐用年数で減価償却計算ができることにあります。

不動産所得の損失を、損益通算できる

2つ目のポイントは、多額の減価償却費を計上した結果、不動産所得に損失を生じさせることです。この不動産所得の損失を他の所得と「損益通算」することが、節税策とされたのです。

米国で1億円の木造住宅を購入し、賃貸した場合

改正前と改正後でどのように違いが生じるのか、具体的な事例で比較してみましょう。

改正前、不動産所得の損失が給与所得と損益通算される

日本人居住者(給与所得3000万円のみ)が、米国で築30年の木造家屋(法定耐用年数22年)を1億円(土地3000万円、家屋7000万円)で購入し、賃貸したとします(米国不動産収入600万円、不動産経費150万円)。

  • この中古資産は法定耐用年数を全部経過しているので、耐用年数4年(簡便法:22年×20%)、減価償却費は1,750万円(7,000万円×0.25)となります。
  • 米国不動産所得:収入600万円-経費150万円-減価償却費1,750万円=△1,300万円
  • 課税所得:給与所得3,000万円+不動産所得△1,300万円=1,700万円(所得控除は考慮しない)
  • 所得税額:(1,700万円×33%)-153.6万円=407.4万円(復興特別所得税は含まない)

改正後、減価償却費相当の損失は生じなかったものとされる

令和2年度の改正により、「個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は生じなかったものとみなす」が創設されました。

国外中古建物に係る不動産所得の金額が赤字の場合、その赤字のうち中古建物の減価償却費相当額の損失は生じなかったものとみなされます。

その結果、上記の国外中古建物については、

  • 赤字△1,300万円<減価償却費1,750万円となり、なかったとみなされる減価償却費は1,300万円。
  • 米国不動産所得 収入600万円-経費150万円-減価償却費1,750万円+1,300万円=0
  • 課税所得:給与所得3,000万円+不動産所得0万円=3,000万円
  • 所得税額:(3000万円×40%)-279.6万円=920.4万円

このように、令和3年分以後の海外不動産による所得を計算する際、建物の減価償却費を全額経費として計上できなくなり、損益通算による課税所得・所得税額の減額ができなくなります。

※上記の適用を受けた不動産を譲渡する場合、譲渡所得の計算上、生じなかったものとされた建物の減価償却費相当額は、不動産の取得価額から控除する建物の減価償却累計額から除かれます(切り捨てられた減価償却費が譲渡時に取得費としてよみがえります)。

改正を受けて考えられる選択肢

今回の改正は令和3年以後の不動産所得について適用されるものであり、すでに保有している海外中古不動産についても適用があります(令和2年分については損益通算可)。

したがって今回の改正を受けて、海外不動産をご自分の同族法人に売却するなど検討されるケースもあるかもしれません。

ただし、海外不動産をご自分の同族法人に売却した際には、個人に対して譲渡所得税がかかります。これまで適用してきた節税効果と物件の値上がり益(値下がり損)のバランスから、保有し続けるか売価するかを検討することになるでしょう。その際、売却時期(5年超長期20%、短期39%/復興特別所得税除く)も考慮する必要があります。

海外不動産について、節税策のつもりが投資の失敗という結果にならないように、早めに状況を把握して対応を検討する必要がありそうです。

2020年5月1日

日本経営ウイル税理士法人
代表社員税理士 座間 昭男

本稿は掲載時点の情報に基づき、一般的なコメントを述べたものです。実際の税務・経営の判断は個別具体的に検討する必要がありますので、税理士など専門家にご相談の上ご判断ください。本稿をもとに意思決定され、直接又は間接に損害を蒙られたとしても、一切の責任は負いかねます。

  • 事業形態 相続・オーナー
  • 種別 レポート

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